Special

「まぁ、裏にスタッフいるから一人じゃないし。それなりに腕は立つ方だと思うし」


その女はふっと小さく笑って目を伏せながらそう言う。


「腕…って、コレか?」


オレは目の前の空になったグラスを指で傾けて聞いた。
すると、今度はさっきより幾分か楽しそうな声で笑って女は答える。


「まさか! まぁ、作るのもそれなりだとは思いたい所だけど? 腕っていうのはこっちの方…」


拭き終わったグラスをコトン、と近くの棚に戻すとオレに近づいてきて、そいつは急に拳を突き出した。

店に誰も居なく、何の音もしないからか。
それともオレが酔ってるのか。

ヒュっと風をきる音が鮮明に聞こえてきて、その目の前に突き出された拳に、瞬きも出来なかった。


「…ヘンな女」
「№1の客にはこういう女、いないんだ」
「だから、その呼び方はッ…」


オレは目の前の手を掴んで視線から無理やり下ろしてついムキになってしまった。


「あ…悪ィ…」


でもすぐに正気に戻って手を離すと、そいつは何も動じていない様子でオレを見ていた。

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