Special
「まだ、飲む? 飲まないならもう閉めるよ」
「あ? ああ…もう、いい」
オレが先に目を逸らして、少し浮かせた腰をまた落ち着かせると、そいつはカウンターから出て行った。
カラン、と音が鳴ったのは、そいつが店先の看板をcloseにしに行ったから。
そして再び同じ音が響くと、今度はカウンター越しじゃなくオレの横まで歩いてきて言う。
「ほんとに…いつも迷惑な客だ」
呆れたように、でもどこか柔らかいカオでたまに言われるこの言葉。
「じゃあ門前払いすればいい話だろ」
そこを敢えて突っかかるようにオレは答える。
それを背中で聞いたそいつは、結っていた髪留めを無造作に外して黒い髪を靡かせながら言う。
「―――捨て猫みたいだったから」
ちらりと振り向きざまにオレを見るその瞳。
その瞳が、オレは忘れられなくて、こうしてここに足を運び始めたんだ。