Special
「そんなことっ…」
“ない”
って言えないのは当然のことで。
だってこの階段を降りるだけであんなに緊張していたり、まして自分は仕送りして貰っている学生。
ホストクラブにくるお金だってあるわけない。
「8年この世界見てきてるんだ、俺は」
私が俯いていると、レンはダメ押しでそう言った。
その言葉には返すことも出来なかった。
「じゃあな」
私はポケットに入っていた名刺を取り出して握りしめながら遠くなるレンの背中に叫んだ。
「家に着いたらっ…連絡するからッ…!」
レンは私の言葉に振り向いて手元の名刺に気付くと、一瞬だけ驚いた顔をしていたけど、すぐに“No.1ホスト”の顔に戻ってくるりと再び背を向けて店内へと消えていった。