Special

足元に視線を戻すとその人はシルクのハンカチを私の踵を覆うように巻き付け顔を上げた。


その時に初めて目と目が合った。
見ると驚く程に端正な顔立ちの人。

キリッと上がった眉の下に薄茶の瞳。
特にその瞳は色香が漂う女性にも似たものを感じ、思わず男の人相手に見とれてしまう。


「じゃあな」
「あっ、あの、コレ!」


そんな私の視線を気にする素振りも見せずに立ち去ろうとした背中に声をあげた。


「やるよ」


私が足のハンカチに手を添えた所に視線を落としてそう言うと、その男の人は一度も振り向くことなく人混みの中に消えていった。



あれから数日。

綺麗に汚れが落ちなかったから代わりのハンカチを用意してあの駅の同じ場所に何度も訪れては見るものの、彼を見かけることはなかった。

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