Special
「アンタ今、“レン”て言ったな…?レンの何?」
カツン
それはどこかで響く足音。
だけど今はそんなことにも気付ける筈もなく、目の前の自分の腕を掴んでる男が何者なのか、そう思って見上げるだけ。
「ちょ…あなたこそ…なんなん…」
内心怖くて堪らなかったけど、震えた声で私は懸命にその男に問い掛けた。
その男の人は少し周りを見て、私をそのままマンションの玄関に引き入れた。
「外だと怪しまれるから」
いや、もう十分怪しいし、すごく怖いッ!!
その男の人はオートロックのボタンをなにやら手慣れたように操作している。だけど片手は未だに私を解放しようとしなかった。
この人…ここの住人なの?!
だとしたら、本当にヤバイ!!家に引きずり込まれちゃったら助けも呼べないよ!
意を決した私は勇気を出して息を大きく吸った。
「レ…ッ」
『はい?』
「おれだ」
私の叫び声に被せる様に、インターフォン越しからレンと思われる声が聞こえてきた。
それに驚いて声を失ってる間に隣にいる男が返事をして難なくもう一つの自動ドアが開けられた。
「…ちっ…」
外のマンションの脇で舌打ちする若い男の存在には誰も気づかなかった。