戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?―特別編―


「……あ、星矢寝ちゃった。
やっぱり、パパの抱っこは安心するみたいね」

彼女の言葉に視線を落とせば、寝息を立てる息子を捉えた。


すやすや眠る星矢は、俺の腕の中でその小さな身を預けている。


「可愛いな……」

「うん」

感情の動かなかった俺でも微笑がこぼれるのだから、まさに子供の力は凄い。



「って、あー!彗星、出社時間!」


時計を見やるなり、慌てて急かす彼女に首をゆっくり振る。


「ああ、構いません。
午前中は予定が入ってないから大丈夫」

「でも、……もう出て行かないから、行って?」

潤んだ瞳で見つめられ、不意の色香に反応しかける。幸い抱っこする星矢の存在で救われた。



「それより実家って、彩人さんのところに行くつもりだったのか?」

「あ、うん。君人(きみひと)くんと遊ばせたいなって」


怜葉の兄で歌舞伎役者である、彩人さんとの兄妹仲はすっかり修復し、関係もすこぶる良好だ。


さらにその奥さんで、俺のいとこの朱莉とも本当の姉妹のように仲がよい。今では月齢違いの息子同士、よく遊ばせているほど。


< 11 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop