戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?―特別編―
「……あ、星矢寝ちゃった。
やっぱり、パパの抱っこは安心するみたいね」
彼女の言葉に視線を落とせば、寝息を立てる息子を捉えた。
すやすや眠る星矢は、俺の腕の中でその小さな身を預けている。
「可愛いな……」
「うん」
感情の動かなかった俺でも微笑がこぼれるのだから、まさに子供の力は凄い。
「って、あー!彗星、出社時間!」
時計を見やるなり、慌てて急かす彼女に首をゆっくり振る。
「ああ、構いません。
午前中は予定が入ってないから大丈夫」
「でも、……もう出て行かないから、行って?」
潤んだ瞳で見つめられ、不意の色香に反応しかける。幸い抱っこする星矢の存在で救われた。
「それより実家って、彩人さんのところに行くつもりだったのか?」
「あ、うん。君人(きみひと)くんと遊ばせたいなって」
怜葉の兄で歌舞伎役者である、彩人さんとの兄妹仲はすっかり修復し、関係もすこぶる良好だ。
さらにその奥さんで、俺のいとこの朱莉とも本当の姉妹のように仲がよい。今では月齢違いの息子同士、よく遊ばせているほど。