戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?―特別編―
「なにを」
――寝ぼけたことを言うんだ、と一笑するつもりが阻まれた。
「そうじゃない!これっ」
怒気の含んだ声で立ち上がると、数枚の写真を俺に提示した。
「――何だこれは」
それらを手に眉を潜める中、椅子から星矢を抱き上げた彼女。
「私が聞いているんです」
でも、と言葉を継ぎつつも、その肩には準備してあったらしいマザーズ・バッグまで担いだ。
「しばらく星矢と一緒に実家に帰らせて頂きますので、失礼いたします」
「は?待て」
夫婦喧嘩に発展仕掛けている最中の逃亡を、俺は性急に立ち塞いだ。
「通れません、道をあけて下さい」
「怜葉さん、待ちなさい」
結婚前は同じ会社の専務とOL。いわゆる上司と部下であった。
互いの口調に以前戻る時――それはまさに、動揺の現れに他ならない。