花かんろ
第二章
「しばらくご厄介になります・・・」
用意していた教員住宅が、転任して行った先生の荷物で溢れていたらしく、尚且つ結構不衛生な先生だったもんだから、三ヶ月程我が家に避難せざるを得なくなったらしい。
「なぁに!三ヶ月と言わず任期満了までずーっといたらいい!」
「なんだったら慎ちゃん、おばちゃんの家の子になればいいのに!」
「それだったら、お父さんだって慎一君と一緒に寝ちゃうもんね!」
陽気が取り柄の我が家の両親はすっかり成熟した大人の容貌の、慎一兄ちゃんに興奮していた。
私はと言うと・・・確かに今時の顔じゃないけど、優しそうで、笑顔が綺麗な男性を目の前にして隅っこで気のない振りをして雑誌を読んでいた。
「早希ちゃん。しばらく見ないうちに随分と綺麗になったね」
「あっ・・・」
当たり前でしょ?こちとらお母さんより高い美容液使ってるんだから
いつもならこれ位の返答当たり前なのに、それすら出てこない程、お兄ちゃんが真っ直ぐ私を、私だけを見るから恥ずかしくなって声も出せないで、二階の自室へ掛けあがった。
三ヶ月、あんな笑顔に耐えられない!
始業式、全校集会でいつも以上に生徒達が騒いでいる。視線の先には、新任の先生に、大学出たての女性教員と慎一兄ちゃん。
とりわけ、女子生徒の声が頻繁に聞こえてくる。
「ちょ・・・よくない?今年の先生」「でもなんかダサくない?」「ダサいってか地味だよね。髪も黒いし」「メガネ取るとまーまーイケなくない?」
「早希の言ってた【慎一兄ちゃん】ってあれ?」
「桃香。あれってやめてくんない?汚れるから」
「汚れるって・・・どんだけ崇めてんのよ」
親友の桃香が後ろから囁く。新任で行くというのを口外しないようにと慎一兄ちゃんには言われていたけど、桃香にだけは話しておいた。
口は悪いけ優しくて何事も私の味方をしてくれる。
背筋を伸ばして立っている慎一兄ちゃんは、それだけで絵になるとしか言えなかった。
「確かにカッコイイ部類には入るけど、固すぎる」
「当たり前でしょ?先生なんだから!むしろ、そこを評価して欲しいものだわ。あ!お兄ちゃん喋る」
壇上に上りマイクを前に一礼。
何をしてもカッコイイ私のお兄ちゃん。