tears
平穏な高校生活を夢見る自分たちには見ているだけでお腹いっぱいと言ったところ。
「聞いとる?」
「誰ね」
あの中で道明を抜いて誰が一番話しやすいかと聞かれれば、五十嵐冬馬だと即答できる。
人懐っこくて気さくで、王子と呼ばれているのに全く気取ったところがない。そこも含めて王子と呼ばれているのは心の底から尊敬できる。
「衣川麗奈、さん」
「…あとは?」
まあ、信頼できるかと聞かれると話は別だが。尊敬と信頼は別のものだから。
「あとはって、別にいてないけどさ」
五十嵐冬馬に優しい笑顔を向けられたなら、誰もが惚れてしまうだろう。
その気になれば本音と建前の使い分けがうまそうだ。友人たちに囲まれていたって、明らかに一人だけ次元が違う。そう、自分たちとは違う人間なのだ。
「カズには無理やろ」
そんな五十嵐冬馬がライバルだなんて。可哀想だけれどあんな奴、和祢じゃ太刀打ちできない。
「…やっぱり?」
高校1年生の春の終わり。
そろそろ制服も半袖に切り替わる季節のこと。
漣だけではなく、和祢も知った。あるいは漣よりも先に気付いていたのかもしれないが。
小さな小さな世界が少しずつ広がり始めていたこと。