『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
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雲行きが少しあやしい。
西の遠くの空に、うっすらと鉛色の雲がある。
雨までは降らないだろう、こちらはまだ晴れている。
2月の朝の空気は冷たい。
鼻の頭はきっと赤くなっているだろうな。
でも、今そんなことを恥ずかしがっている場合じゃない。
全速力で走る。
やばい。
遅刻だ。
せっかく整えた髪も、これでは台無し。
いや。
そんなことは今、どうでもいい。
とにかく教室に滑り込まなくては。
しかも、1限目は古文じゃないか。
古文の山田は嫌味を言うのが得意な男。
男のくせにネチネチしている。
絶対、性格悪いと思う。
頭も寝癖だらけだし。
いや。
山田の寝癖はどうでもいい。
とにかく、急がねば。
わたしは髪を振り乱して、凍るような向かい風の中を、ただ走った。
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