『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
そんな声が聞こえているのかいないのか、彼は鞄から本を取り出し、飄々(ひょうひょう)とあの先輩の元へ向かった。
周りの目など一切気にせず、2人は廊下で何やら話し込んでいるようだった。
わたしはその様子を、友だちと話しながらちらりちらりと窺うことしかできなかった。
そしてわたしは確信した。
やっぱり、あの2人はつき合っている。
だって、下の名前で呼んだもの。
だけど。
あの2人はもうすぐお別れってことになる。
あの先輩はあと1週間で、この学校を卒業する。
もし県外の大学に進学するのなら、遠距離恋愛になるのかな。
そうじゃなくても、きっと、寂しいんだろうな。
あの先輩、きっと卒業したくないんだろうな。
楢崎くんでも、彼女が留年したらいいのに、なんてことを思っちゃうのかな。
卒業式は3月1日。
彼とあの先輩が切ない気持ちでこの日を迎える頃、わたしはもう17歳になっているんだ。