『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
その甲斐あってか、なんとか授業には間に合い、なだれ込むように自分の席についた。
かと思えば、すぐに山田が教室に入ってきて、学級委員の「起立」の掛け声でまた立ち上がり、頭を下げて、また腰かけた。
肩で息をする。
頭に酸素が回らなくて、ふらふらした。
半ば無意識に、カバンから古文の教科書を取り出そうとしたその時。
青ざめた。
無い。
教科書が無い。
まずい。
まずいまずいまずい。
これは非常にまずい状況。
教科書を2回忘れると、レポートを書かされるのだ。
そう。
今日がその2回目。
思わず頭を抱えたその時。
隣りの席の楢崎(ならさき)くんが、無言のままわたしに教科書を差し出していた。
わたしが「え?」という表情で目を見開くと、彼は山田の目を盗んで、無理矢理わたしの机に教科書を載せた。