『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
翌朝、わたしは楢崎くんとどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
とにかく、お礼だけはちゃんと言わなくちゃ。
本当は浮かれたいのに、あの先輩の笑顔がブレーキをかけた。
傷つきたくない。
冷静に、冷静に、と何度も言い聞かせた。
なのに。
こんな日に限って、登校中、ばったりと彼に会ってしまった。
予想外の展開に、心臓が止まりそうになった。
「おはよう」
そんなわたしとは裏腹に、彼は淡々とあいさつをしてきて。
「お、おはよ」
返事をするのがやっとだった。
「急がないと、遅刻だよ」
「う、うん」
早歩きする彼の隣りを、わたしは小走りした。