『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
「あのさ」
上から彼の声が降ってくる。
「僕の手帳にも、2月29日、加えておいてもいい?」
彼の顔をちらりと見ると、彼はわたしを見つめて、
「来年も、再来年も」
と、つけ加えた。
自然と笑みがこぼれた。
「うん」
わたしが頷くと、彼は歯を見せて笑った。
わたしも肩をすくめて微笑み返すと、突然、彼は何かを思い出したかのように腕時計を見た。
「あ」
目を見開く。
「急ごう」
そう言うと、彼はぎゅっとわたしの手を引いて、走り出した。
fin