『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
えっと……
これは、ひょっとして?
わたしは楢崎くんの袖をシャーペンで突つき、
「いいよ、いいよ」
と、口だけ動かして教科書を返そうとしたが、彼は知らんふりしていた。
しかし、わたしのその無駄な動きのせいで、山田がこちらに気づいてしまい、
「そこ、どうした」
と、ねっとりとした粘着質な声が教室に響いた。
最悪だ……
わたしがうなだれていると、隣りの楢崎くんがすっと立ち上がり、
「すみません。僕が教科書を忘れたので」
と、淡々と述べた。
一瞬何が起こったのかわからなくて、頭の中が空洞になった。
「楢崎が忘れるなんて珍しいな。次は気をつけろよ。2回目はレポートだぞ」
「はい」
そう言って、楢崎くんは静かに着席した。
私はしばらく思考が止まってしまった。
そして、はっと我に返った時、また頭を抱えてしまった。