『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
楢崎くんは、無口な人だった。
そして、1人でいることが多かった。
それは決して嫌われているわけではなくて、群れるのが好きではないようだった。
成績も優秀で先生からの信頼も厚く(だからさっき、山田は楢崎くんに嫌味を言わなかったんだ、きっと)、物静かな彼は、わりとなんでもきちんとしているように見えるのに、いつも後頭部の髪がはねていた。
でも、それすら愛しく思わせる雰囲気が、彼にはあった。
同じ寝癖でも、山田とは大違いだ。
あいつのは、はっきり言って、醜い。
2限目の数学の授業を、楢崎くんはいつもどおり真面目に受けている。
先生が黒板に書く数式を、しっかりとノートに書きとめている。
視線が黒板とノートを行き来するうちに、黒縁眼鏡がずり落ちてくるようで、中指で眼鏡を押し上げている。
これは彼の癖だった。
わたしは彼のこの仕草が好きで、頬杖をついて外を眺めるフリをして、細くて長い節のある中指をこっそり眺めていた。