『短編』黒縁眼鏡のダイアリー
翌朝、わたしは彼に折りたたみ傘を返した。
「ありがとう、助かったよ」
と言うと、彼はうん、とだけ頷いた。
「楢崎くんは昨日、大丈夫だったの?」
昨日までだったら平気で尋ねられたようなことに、今日はとても勇気がいった。
そしてわたしが思いきって尋ねたその質問にも、彼はただ頷くだけだった。
もう1本、傘を持ってた?
購買でビニール傘を買った?
ずぶ濡れで帰った?
もしくは……
あの人の傘に、入れてもらった?
彼の「うん」は、どれを意味していたんだろう。
考えれば考えるほど、もやもやするだけだった。