醜女と呼ばれた姫
「そういうな、藤よ。お前の幸せをいつも願っているのだから」
藤も若草も、一人の母から生まれた血の繋がった姉妹である。
その姉妹の父、宏道はこの娘が心配であった。他の妻の娘はみな相手がいる。恋文を貰ったなどと聞いていたが、この娘にはそういうものがない。
しかも、よからぬ噂に頭を悩ませていた。
恐らくだが、そのよからぬ噂のせいではないか、などと思う。
美人の定番といったら漆黒でまっすぐな髪。が、藤の髪はまっすぐではなく、緩やかにすこしだけうねっていた。
華美を好まず質素であり、流行からは離れているだろう。
貴族で欠かすことの出来ない歌も苦手。
だが、
「父上、私はもういいのです。どうか、妹たちのいい相手を見つけてあげてきださいまし」
などと言い、娘たちの中では一番、心の優しい子なのである。
今美人といわれるのは切れ長の目とほっそりとした顎。色白の女。
しかしどうだろう。娘は小柄でふっくらしており、目は大きくまるで幼子のようだ。
そんな藤を悪く言うものたちが「醜女」などと言っているのを、藤自身が知らぬわけもない。
他の娘たちに何かいわれるのがつらいのだろう。
父はそんな娘を痛々しく思っていた。そして自分の子、娘の中でも一番、心配していたのである。