逢いたくて

最後の日々

コートを預けてあるため薄いドレスのままホテルをでてひたすら歩いた

ここがどこだかわからない

季節は春

夜はまだ寒い

ドレスだからまわりの人がつぎつぎに振り返る

ヒールで歩きにくい…

勢いで出てきたけれど…

携帯もないしどうしよう…

現実的なことを考えはじめた

渉…きっと怒ってる

でももどれないし…

時期院長の妻がパーティーを抜け出すなんてそれこそ品格を疑われるよ…

お腹も痛い

足も痛い

え~い裸足になっちゃえ

裸足になってビルの塀に腰掛けた

寒い

自分の腕を抱えるようにして寒さをやわらげようとした

でもそんなの気休めにしかならない

かといってこの服では…お店に入れないし…

「……渉…」

いつもこういうと答えてくれる渉がいない

「わたる…」

何度も何度も名前を呼んだ




「わ…た…る…」

つかれと眠気に襲われて視界がゆがんだその時

あたたかい温もりに包まれた気がした
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