カサブランカにはなれない
しかし、守は変わった。
彼の大学の友達に、演劇の劇団に入っている人がいて
人が足りないからちょっとだけ出てくれと頼まれて出たのが彼の転機になった。
エキストラのようなもので、台詞はなかったが、舞台に立った時の緊張感や興奮が
たまらなかったらしい。それが忘れられなくて俳優を目指すと言い出したのだった。

それが大学四年生の時だった。
守はもう就職が決まっていたのに、内定を辞退した。
私はもちろん猛反対した。
しかし、守は何を言っても一切聞く耳を持たなかった。
「三年くれ。三年やってみてだめだったら自分に才能はない。あきらめて就職するよ。」そういってフリーターになってしまった。
ドラマで見た事があるようなよくきく台詞だった。
実際成功した人が若き日を振り返ってよくインタビューで言っているような事だ。
しかし成功者なんてほんのひとにぎりに過ぎない。
他人の事だったら、かっこいいだとか夢を追いかけていてすごいというふうに
思うかもしれない。しかし、実際言われるとちっともそんなことは思わなかった。
ひとごとではないからだ。私は愕然とした。
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