カサブランカにはなれない
キヨさんは色恋話も大好きだった。
「今日は時代劇のドラマ、やるかね?」
キヨさんは新聞を見るといつも楽しみにしているドラマをテレビ欄で探し始める。
「やるんじゃないですか?」
「あれはね、ちょっとエッチなシーンが必ずあるんだよ。
 じいさん連中が楽しみにしとるんじゃないかね。嫌だね、まったく。」
「キヨさんだって楽しみにしているじゃないですか。」
「昔を思い出しちゃうね〜。私だって良い体していたんだよ。」
「へ〜そうなんですか。」
「じいさんだって、私にぞっこんだったんだから。
 私はそうでもなかったんだけどね。今は、私はひろさんが一番好きだね。」
キヨさんは、スタッフと利用者が集まっている方を見つめながら言った。
「えぇ??どのおじいさんですか?」
私はキヨさんの見つめる方をみた。
「あんた何言っているんだよ。じいさんじゃないよ。あの背の高い人。」
ケアワーカーの若い男性だった。
「えぇ??あの人?本当ですか?」
確か、タケダという名だっただろうか。この施設に来たばかりで私より
少し年上の男性だった。私は冗談かと思った。
「いつになっても男性に好意を持つっていうのはいいことなんだよ。こんな生活をしているとね、死にたい死にたいって思っちゃうものなんだよ。
だから毎日楽しみがあると、ボケ防止にもいいんだよ。」
「そうですね。・・・失礼しました。」
「わたしなんてね、わざとあの人の前で手が痛いって騒いで触ってもらっているんだよ。いい考えだろ?」
「・・・特権ですね。」
「この前なんて、ひろさんが夜勤の時にわざとナースコール一杯押してな、ベッドの横に何回も来てもらったんだから。」
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