カサブランカにはなれない
「・・・事務だからじゃないですか?」
「え?」
「あまり詳しい事知らない人間だから。ケアワーカーさんには何から何まで知られちゃっているから照れくさいんじゃないですか?」
「そうかもしれないですね。俺にはよくしてくれるんだけどな。孫みたいに
かわいがってくれるんですよ。」
「そうですか。」
私は、なんだか「孫」という言葉を聞いた瞬間、キヨさんがかわいそうだと思った。
「実は・・・キヨさんに、渡辺さんと話してみろってしつこく言われたんです。」
私はキヨさんは何を企んでいるのだろうと思った。
「なんででしょうね。」
「・・・キヨさんが言うには、あの子は面白い子だよって。でも最近元気がないようだから、機会があったらしゃべってみておくれって言ってたんです。」
私は恥ずかしい気持ちになった。
「・・なに考えているんでしょうね。」
「たぶん、ご家族が今度面会に来るってきいて、嬉しくなって舞い上がっていたんじゃないかと思います。半年ぶりだって喜んでいましたから。どこか一緒に出かけるって言っていましたよ。」
「そうなんですか。次男夫婦ですか?」
「はい。長男さんは今九州の方らしくて。次男さんの家はここから近いんですけどね。
滅多に来ないんで、楽しみにしているみたいですよ。」
「キヨさん、よかったですね。」
「これからもキヨさんの話し相手になってあげてください。名前をちゃんと呼んであげたり会話をする事は、本当に精神的にいいことらしいので。」
「はい、そうします。」
「渡辺様〜」
やっと名前が呼ばれた。
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