カサブランカにはなれない
私は薬を受け取って、早くこの場を立ち去ろうとタケダに軽く会釈をして
出口へと向かった。
その時だった。
「高田様〜」
会釈を返しながら「はい」と返事をして立ち上がった。
私はしまったと思った。
私がタケダと読んでいた男は高田という名前だった。
私はどうしようと思いながらも逃げるようにバス停へと早足で歩いた。
確実に本人の前で間違えてしまった。
でも、今後話す事なんてないだろうから大丈夫だと思い私は
なかなか来ないバスを待った。
そしたら、高田がこっちに向かって走ってきた。
バスに乗るらしかった。
「はぁはぁ。まだ来てなくて良かった。25分のに乗れなかったら次30分待ちですからね。」
「・・・バス通勤なんですか?」
「いえ。いつもは自転車で来ているんですけど。自転車パンクしちゃって。
雨の日はたまにバスで来るんだけど。本当にこのバス本数少ないですよね。」
「はい。大変ですよ。雨降るとかなり遅れちゃうんですよ。」
バスが来た。
私はバスカードを取り出し、バスに乗り込んだ。
バスは時間帯のせいもあってがらがらだった。
私は座る場所に困った。隣に座るのは少し嫌だったが、
あえて離れて座るのもおかしすぎるのでしょうがなく高田の隣に座った。
「すぐ降りちゃうんですけどね。」
私は助かったと思った。
「あの。ごめんなさい。私、タケダさんってよんでいましたよね。」
私は早めに謝ってしまおうと思って高田に言った。
「いえ、俺も渡辺さんの名前、キヨさんに聞くまで知らなかったですから。」
高田がフォローした。
「スタッフのお名前、わからない人が多くて。」
「俺も、事務所の人の名前知らないから。」
私は、バスの揺れで気持ち悪くなっていた。
「・・・顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
高田は私の顔を覗き込む。
私は、人見知りをするタイプなので今日初めて話した人との会話も
かなりの労力を使っていたせいか、すっかり疲れ果てていた。
バスの独特のよどんだなまぬるい空気で余計気分が悪くなった。
「・・・ええ。大丈夫です。」
高田は、降車ボタンを押した。
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