カサブランカにはなれない
「おはようございます!!キヨさん、昨日はどうしたんですか?」
キヨさんはとても元気そうだった。
「眠くてお昼過ぎまで寝過ごしちゃってね、まいったよ。
 おなかすいて目が覚めたんだよ。」
「そうだったんですか、具合が悪いのかと思って心配しました。」
「あそう。悪かったね。」
新聞を見ながらキヨさんは言った。
「あの、お食事楽しかったですか?」
私はキヨさんの背中を見ながら言った。
「・・・うん。食事はここのよりおいしかったよ。でも嫁は相変わらずだったよ。
息子も息子で尻に敷かれっぱなしだからいけないんだよ。あの嫁がつけあがっちゃうじゃないか。」
「そうなんですか。」
「私は一回も家に帰りたいなんて言った事ないんだよ。
それなのに、お正月に帰るのもダメだなんて。鬼だよ、あの女は。」
キヨさんは怒っていたが、顔はとても寂しそうだった。
「・・・そうですね。」
私はお嫁さんの言っていた言葉を思い出していた。
「家にいるよりね、ここで年を迎えた方が幸せだよ。ひろさんもいるしよ。
それよりあんた、いつも以上に顔色が悪いよ。」
キヨさんは、私をじっと見つめた。
「そうですか??最近寒いからですかね。キヨさんは大丈夫ですか?」
「若いのに、そんな病人みたいな顔しちゃって。」
私は、はたからみるとそう見えるんだとはじめてわかった。
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