カサブランカにはなれない

14.夢が現実

私は夢を見ていた。
私はいつもの駅前の通りを歩いている。すると柱時計の下で守がいた。
誰かと待ち合わせをしているようだった。私は駆け寄って話しかけようとした。
すると知らない女の子が笑顔で守の元へ走りよってきた。
二人は楽しそうに笑いながら霧の中へと消えていった。
私はこれが現実か夢かわからなくなりその場に座り込んだ。
そしたら、目の前にこんな場所にいるはずのないキヨさんが車いすで現れた。
私は嬉しくなっていつものように話しかけようと近寄った。
するとキヨさんの次男夫婦がやってきて楽しそうに笑いながらキヨさんと話をし出した。お嫁さんは、この前見たような恐い顔ではなく、笑っていた。
キヨさんは嬉しそうに車いすを押してもらいながら霧の中へと消えていった。

私の姿は見えないのだろうか。まったくこちらに気づかない様子だった。
今度は詩織が現れた。
声をかけようとすると私とは反対側から佐田が詩織に声をかける。
詩織はとても嬉しそうに佐田の方を見ている。
詩織も佐田も私の方を全く見ずに歩き出した。
私は「詩織ー!!」と叫んだ。
詩織は佐田と笑い合っている。
私はあきらめて詩織の横顔を見ていた。
一瞬詩織が私の方を見たような気がした。
詩織の顔が憎しみに満ちているように見えた。
笑顔の中で目だけが私を睨みつけているように見えたのだ。
ちがう、私は詩織が佐田を好きだと知らずに佐田と付き合ったのだ。
知っていてわざと付き合った訳ではないのだ。
私は詩織に弁解しようとした。
しかし、詩織は佐田に肩を抱かれながら、霧の中へと消えていってしまった。
私は誰もいなくなって怖くなった。しーんと静まり返っている。
この街には人間が一人もいなくなってしまったようだった。
夜明け前のような湿った霧が白く濃く私を覆っていた。
遠くの方で信号だけが赤く点灯していた。
車も自転車も歩く人も一人もいなかった。
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