カサブランカにはなれない
私は熱々のうどんをすすった。
熱くて鼻がジーンとした。
スープと飲むと、気持ちが落ち着いた。
高田はお腹がすいていたのか、勢いよく食べている。

「なんか今日は迷惑かけてしまってすみませんでした。」
私は言った。
「いや、俺も夕飯付き合ってもらってるしいいよ。
それより、渡辺さんは、学校卒業してからすぐにここに就職したの?」
高田は取り皿にうどんをよそいながら言った。
私はいつも詮索されるのを嫌っていたが、今は自然と何を聞かれても苦ではなかった。
「・・・はい。高田さんはここに入る前に何かしていたんですか?」
「うん。大学を卒業してから都内でサラリーマンをしていたんだけど。ペースについていけなくて二年で辞めたんだ。情けないよね。でも、本当にやる気になれなくなっちゃってさ。営業をしていたんだけど、自分のやっていることがわからなくなっちゃったんだ。うちの両親は考えが甘いっていうんだけど、人には向き不向きがあると思って。俺には合わなかったんだ。それからヘルパーの資格を取って今のところに入ったんだ。
昔からおばあちゃん子だったから、ヘルパーの仕事にずっと興味があったんだ。
給料は安いし、力仕事だし、時間不規則で大変だけど、前よりずっとやりがいはある。
利用者の方が、毎日自分のことを頼ってくれていると思うとやっていてよかったって
思うしね。」
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