カサブランカにはなれない
「・・いいですね。」
私はぽつりといった。
「渡辺さんもヘルパーの資格だけ取ってみたら?すぐとれるし、何か変わるかもよ。」
高田は、食べる手を止めていった。
「・・・そうですね。事務をやっているといつも思うんです。私がやっている仕事って無力だなって。何の役にも立っていない気がするんです。誰かがやらなきゃいけない仕事ですけど、誰がやっても同じ仕事だから。
正確に間違いなく請求書を出すとか、保険が切れないように管理するとか、
失敗したら人に迷惑かけるけど、ちゃんとやったって当然だって思われるだけですから。何かもの足りなさはいつも感じていると思います
人に感謝されるようなことはしていないですから。
感謝されたり褒められたり、自分は特別だって言われたりしたいだけなんだと思います。子供ですよね。」
私は笑った。
「そうかなぁ。みんなそうなんじゃないの?
いくら仕事だからって割り切っていても、どこかで心のよりどころがないと
毎日が楽しくなくなっちゃうから。
渡辺さんを見ているとさ、前の自分を見ているようなんだ。
自分は大きな歯車の一部になっているだけで毎日が窮屈だって。
歯車だって言う事実は変わらないかもしれないけど、
そんなに真面目に考えすぎなくってもいいんだと思うよ。
自分は全てわかっていて、歯車になってやっているんだと思えば。
それだってキヨさんみたいに渡辺さんのことを楽しみにしていた人もいるんだから。
って、偉そうに言える立場じゃないけどね。」
高田は笑った。
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