カサブランカにはなれない

4.職場という「箱」のなか

相馬さんは三十九歳だった。それを知ったのは半年経ってからだった。
ずっと二十代後半か三十初めだろうと思っていた。
しかし、年を聞くのは失礼だろうという思いからずっと聞けなかったのだが、
あるとき、全職員の一覧表を見つけ、生年月日を見てしまったのだ。
私はびっくりした。
相馬さんは独身だった。詳しくは聞いた事はなかったが彼氏もいないようだった。
とにかく見た目が若い人だった。
背は小さく、とても細くて、真っすぐなストレートの長い黒髪がきれいな人だった。
チワワのような愛らしい童顔だったので余計若く見えたのかもしれない。
最初の印象はそんな感じだった。
うつむいて長い髪をかき分けながら書類をてきぱきと分ける様子や
細くて小さい指でパソコンのキーを打つ様子がおしとやかに見えた。
しかし、それは最初だけだった。
美人なのに結婚していない訳がわかった気がした。
チワワのようにかわいらしいのに性格がとてもきついのだ。
私は見た目のかわいさから、最初は「この人は優しい人なんだ」と決めつけていた。
敬語はもちろん使ってはいたが、冗談を言ったりしても可愛らしく笑ってくれる人なのかと思っていた。
だれにでも優しくにっこり笑いかけてくれるような癒し系の人物かと思っていた。
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