さよならまた逢う日まで
「なぁ啓太、付き合ってくんね?」


桜井が俺の視界に入ってきた。


「えっ?!」


「いいから~」


そう言うと桜井は、席を立ちサッサと教室を出て行った。



ついて行きたくもないが、行かないとまたしつこい。


このまま机に伏していても悶々とするだけだし。


俺は席を立ち、教室の後ろの方から廊下へ出た。


桜井は廊下の突き当たりの教室の前で立ち止まっていた。


隣にたどり着いたのを感じたのか


「やっぱり堺はかわいいよな~。なぁ?啓太。」


と振り返りもせず桜井は言った。



堺・・・・。




陸上部の長距離選手。



俺が一応所属しているサッカー部の隣でいつも陸上部は練習していた。



堺は毎日黙々とトラックを走っている。


日に焼けた肌に、顎のラインに切りそろったショートボブの髪が彼女の動きに合わせなびいていた。



今一つパッとしないサッカー部とは違い、堺の所属する陸上部は、毎年のように全国大会へと出場していた。


色気づいて外見の事しか考えていない女子が多い中、堺はちょっと違っていた。


「もっと早く走りたい。」


そう言っているかのように、彼女は奥深く吸い込まれるような目をしていた。


俺の数少ない友達である桜井。


正直空気が読めずイラッとする事が多いが、女子を見る目はかなりあると褒めてやりたい。



堺はかわいい・・・・。


そしてかなり気になる・・・・。



ずっと思っていたけど、桜井が先に言ってしまった。



言ったもん勝ちで、先を越された俺は思いをしまいこむしかなかった。



「夏休みさぁ~俺思い切って告っちゃおうかな~。」



隙だらけの俺の心臓は、思い切り殴られたようにズドーンと衝撃を受けた。


「えっ?!」



「花火大会あるだろ。あれ誘おうかな~って思うんだけど。」


相変わらず桜井は、全く俺を見ようとせず、勝手に話を続けた。



「啓太は好きな子とかいないの?一緒に告っちゃってさ~花火大会いかね~?」


完全にいけるつもりで桜井は盛り上がっていた。



「啓太は好きな子いないの。」



その質問が心の中で繰り返された。



いるよ・・・・。



心の中で答え、俺は堺を見つめた。



「お~い!桜井」


俺らの教室の前で、顧問の谷口が手招きして桜井を呼んでいた。


「やっべ~谷口だよ。バイトすんのばれたかな。


わりぃ~ちょっと行って来る。」


どこまでもマイペースに桜井は行ってしまった。


取り残された俺はまた堺の方に目を向けた。



その瞬間目が合った


さっきの衝撃とは違う衝撃が、ドクンと心臓に入った。



多分一瞬だった時間がスローモーションで数分のように思えた。



堺はさっと目をそらした。



俺の勘違いかもしれないけど、グラウンドでも堺とよく目が合う。



きっと勘違いだ。


俺の隣にいつもいる桜井も目が合うって言ってたし。



でも・・・・あれは偶然なのか。



他の教室の前で一人立っているのも何か変なので、俺は自分の教室へ戻ろうとした。


向きを変え歩き出そうとしたその先に、壁にもたれかかったあいつがいた。








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