さよならまた逢う日まで
おめぇ、なめてんの?買って来いって言う物は買ってこねぇし、おまけにバックレてんじゃねぇよ!授業サボるなんていい度胸じゃね?」
加藤が黒ケンを蹴り飛ばし踏みにじった。
怯えながら顔を上げた黒ケンと目があった。
放課後の廊下は一瞬静まり返ったが、これはいつもの光景だった。
横目で気にしながらも、皆目をそらし気に留めない振りをしていた。
俺だけがその場で真正面にその光景を見つめていた。
「なんだよその目。俺に楯突こうって言うの?お前もいい加減利口になれよ。言われた事きっちりやればいいんだよ。」
立ち上がってきた黒ケンの頬を加藤がはたこうとし、その手首を黒ケンがつかんだ。
「はっ?いじめられ過ぎて頭おかしくなったの?」
加藤は腕を振りほどき、数歩後づさった。思い切り右腕を引いて助走をつけ拳を黒ケン目掛けて突き出した。
誰もがみんな、まともにパンチを食らった黒ケンが廊下を転がる姿を想像していた。
が・・・・転がったのは加藤だった。
パンチを交わされ、勢いで前に倒れこみ転がった。
壁にぶつかり止った加藤は一瞬何が起こったのか分らず、放心状態になった。
「ふざけやがって!何の真似だよ!」
我に返り怒りでパニくった加藤は、ヨタヨタと立ち上がり、黒ケンに対しまた拳を振り上げた。
黒ケンは一瞬目を閉じ、両手を合わせ合掌し、上体を斜めに反らせ構えた。
殴りかかってきた加藤に、真横に突き出した足が鮮やかに入った。
再び転がり壁に激突した加藤は呆然と空を仰ぎ起き上がれずにいた。
蹴り上げた足を元に戻し、呼吸を整えるように深く息を吸い込んだ。
震える両手をおさめるようにぐっと握りしめ、黒ケンは加藤に近づいて行った。
「お・・・お前らなんかに支配されるつもりはねぇ・・・・」
棒読みの台詞のように、黒ケンは加藤を見下し、そう言った。
肩で大きく深呼吸をした後、黒ケンは真っ直ぐ俺の所へ歩いてきた。
見てみぬ振りだった者は、思いもよらない展開に、呆然とし、黒ケンの行動を目で追っていた。
「これで・・・これでいいかな?」
黒縁眼鏡の下の眼差しは真っ直ぐ俺を見ていた。何か吹っ切れたように、黒ケンの目に光がさしているようだった。
「お・・・おう・・いいんじゃないの」
「草野くんの言うとおり・・・ぼくは飼い主の指示を待っている犬のようなものだった。
自分の考えで行動する事が怖かった。
でも・・・もう誰かのせいにはしない。
自分の考えで歩くよ。
ぶつかっても、あの人に乗り越える力を与えてもらったから、必ず自分で立つ。・・・」
溜まっていた思いを吐き出すかのように、黒ケンは続けた。
「草野くん。背中を押してくれてありがとう。」
・・・・ありがとう・・・・
黒ケンの言葉が胸の中で何度も響いた。
時間は無限にあると思っていた。
少なからず、限りがあるとしても、はるか先のこと。
だから、今の自分を見つめる事もなければ、日々起こったことが何も心に残らない、そんな生き方をしていたかも知れない。
そんな何も考えず、役立たずで生きてきた俺の言葉で黒ケンは変わった。
黒ケンへ向けた言葉全てが自分へ対する言葉でもあった。
残された時間はもう1ヶ月を切ってしまった。もう後ろを振り返って後悔している時間はない。
前に進むしかない。
なんとなく見えてきた気がした・・・・。
「って言うかお前、まんまいってるじゃん。」
いつの間に居たのかガブリエルが黒ケンの背中をバシンと叩いた。
「啓太、俺も帰る。」
ガブリエルは俺の肩を組み、歩き出した。
「じゃあな黒ケン!加藤なんてぶっ飛ばしちゃえ」
そう言うと後ろ手を振りカブリエルは俺を連れ歩き出した。
加藤が黒ケンを蹴り飛ばし踏みにじった。
怯えながら顔を上げた黒ケンと目があった。
放課後の廊下は一瞬静まり返ったが、これはいつもの光景だった。
横目で気にしながらも、皆目をそらし気に留めない振りをしていた。
俺だけがその場で真正面にその光景を見つめていた。
「なんだよその目。俺に楯突こうって言うの?お前もいい加減利口になれよ。言われた事きっちりやればいいんだよ。」
立ち上がってきた黒ケンの頬を加藤がはたこうとし、その手首を黒ケンがつかんだ。
「はっ?いじめられ過ぎて頭おかしくなったの?」
加藤は腕を振りほどき、数歩後づさった。思い切り右腕を引いて助走をつけ拳を黒ケン目掛けて突き出した。
誰もがみんな、まともにパンチを食らった黒ケンが廊下を転がる姿を想像していた。
が・・・・転がったのは加藤だった。
パンチを交わされ、勢いで前に倒れこみ転がった。
壁にぶつかり止った加藤は一瞬何が起こったのか分らず、放心状態になった。
「ふざけやがって!何の真似だよ!」
我に返り怒りでパニくった加藤は、ヨタヨタと立ち上がり、黒ケンに対しまた拳を振り上げた。
黒ケンは一瞬目を閉じ、両手を合わせ合掌し、上体を斜めに反らせ構えた。
殴りかかってきた加藤に、真横に突き出した足が鮮やかに入った。
再び転がり壁に激突した加藤は呆然と空を仰ぎ起き上がれずにいた。
蹴り上げた足を元に戻し、呼吸を整えるように深く息を吸い込んだ。
震える両手をおさめるようにぐっと握りしめ、黒ケンは加藤に近づいて行った。
「お・・・お前らなんかに支配されるつもりはねぇ・・・・」
棒読みの台詞のように、黒ケンは加藤を見下し、そう言った。
肩で大きく深呼吸をした後、黒ケンは真っ直ぐ俺の所へ歩いてきた。
見てみぬ振りだった者は、思いもよらない展開に、呆然とし、黒ケンの行動を目で追っていた。
「これで・・・これでいいかな?」
黒縁眼鏡の下の眼差しは真っ直ぐ俺を見ていた。何か吹っ切れたように、黒ケンの目に光がさしているようだった。
「お・・・おう・・いいんじゃないの」
「草野くんの言うとおり・・・ぼくは飼い主の指示を待っている犬のようなものだった。
自分の考えで行動する事が怖かった。
でも・・・もう誰かのせいにはしない。
自分の考えで歩くよ。
ぶつかっても、あの人に乗り越える力を与えてもらったから、必ず自分で立つ。・・・」
溜まっていた思いを吐き出すかのように、黒ケンは続けた。
「草野くん。背中を押してくれてありがとう。」
・・・・ありがとう・・・・
黒ケンの言葉が胸の中で何度も響いた。
時間は無限にあると思っていた。
少なからず、限りがあるとしても、はるか先のこと。
だから、今の自分を見つめる事もなければ、日々起こったことが何も心に残らない、そんな生き方をしていたかも知れない。
そんな何も考えず、役立たずで生きてきた俺の言葉で黒ケンは変わった。
黒ケンへ向けた言葉全てが自分へ対する言葉でもあった。
残された時間はもう1ヶ月を切ってしまった。もう後ろを振り返って後悔している時間はない。
前に進むしかない。
なんとなく見えてきた気がした・・・・。
「って言うかお前、まんまいってるじゃん。」
いつの間に居たのかガブリエルが黒ケンの背中をバシンと叩いた。
「啓太、俺も帰る。」
ガブリエルは俺の肩を組み、歩き出した。
「じゃあな黒ケン!加藤なんてぶっ飛ばしちゃえ」
そう言うと後ろ手を振りカブリエルは俺を連れ歩き出した。