さよならまた逢う日まで
誰もいない教室の入り口で立ち止まり見渡した。


自分の席の列を前からゆっくり歩いてみる。


机に担任の越野の似顔絵が描いてある。


ちゃんと耳にボールペンがさしてある。

吹き出しに「宿題提出しろ~うん。」と、語尾に「うん」とつける奴の口癖まで描いてある。


「細け~!フッ。」と思わず吹き出してしまった。


一人笑う自分に恥ずかしくなり、辺りを見渡し誰もいないことを確認する。


別の席には、片思いの詩のようなものが書かれてある。


…女子の気持ちは…複雑だ。

 
後ろまで行き、向きを変え自分の席まで戻る。


早すぎて、何もやることがない・・・・。

 

「あっ!草野。早くね?」


振り返ると、後ろの入り口から藤田という学級委員をやっている女子が入ってきた。
 
「うっ・・・あ~ちょっと。・・・」
 

毎日のように遅刻かギリギリで学校に来るような俺みたいな奴には誤魔化す理由が見つからない。

 

「昨日から・・・・泊まってた。」

 

「へっ?!」

 

これ以上突っ込んでくるな・・・・と席を立ち、藤田に目で訴えながら教室を出た。

 

俺がこの時間教室にいるのは、突っ込まれて当然なほど不自然だ・・・・。


最初からあそこに行けばよかった。

 

一瞬纏わりつく熱気に上がるのを躊躇しそうになるが、意を決して階段を上った。


呼吸をするだけで汗がにじむ。

 
階段を上り切り重たいドアに手をかけ、体ごと押して開くと、ドアの隙間から、決して爽やかとは言えない、熱を帯びた風があふれ出てきた。

 

朝のまだぼやけたブルーの空が目の前に広がった。


誰もいない屋上の中央まで進みその辺りで座った。


上体を支えるように両手を後ろにつき、足を投げ出した。


座った状態だと空しか見えない。


上空を眺め、鼻から息を吸い込んだ。


目を閉じると、音が吸い込まれるように耳に入ってきた。


自転車小屋の辺りが、ガシャガシャと騒がしくなってきた。


耳を澄ますと、女子たちの話し声が聞こえてくる。


昨日音楽番組に出ていたアイドルグループの話題にハイテンションなようだ。
 

朝から大したエネルギーだ。


変な話根本の体力が男子は女子より劣っているような気がする。


野生の世界でも、オスよりメスが強いって言うしな・・・。


男っていうのは…情けねぇな・・・。
 

空を仰ぎ見ながら、そのままグーッと上体を反らして逆さまの世界を見た。

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