さよならまた逢う日まで
さっき入ってきた入り口・・・その屋根の上のものが視界に逆さまに入ってきた。

 
「おう。早いじゃん。」

 
逆さまのまま倒れ、慌てて起き上がり振り返った。

 
入り口の屋根にいたのは、ガブリエルだった。

 

「なんで・・・いるの?」

 

まさか・・・・24時間監視されているのか・・・と一抹の不安がよぎった・・。

 

「ばぁちゃんが倒れて救急で病院に運ばれた。・・・・俺さっきまで付き添い。」
 

ガブリエルは遠くの空を見ながら答えた。

 

昨日会った詩織さんは、元気そうだったのに。


宿命は決められた通りに進んでいくのだろう。

 
返す言葉がなく、黙って俺も遠くの空を眺めた。

 

「お前・・・・あの子好きなの?」

 

沈黙を破るその言葉が俺の心臓を軽く小突いてきた。

 

・・・・やっぱり監視してやがるこいつ・・・。

 

「恋・・・・ってやつか」

 

女子が読むようなやつにしか出てこないような、野郎が口にするとどうもくすぐったいその言葉に、更に俺の心臓はさっきより強く小突かれた。

 

「あの調子じゃなかなか進まねぇな。俺が伝授してやろうか?一応キューピットですから。」

 

横目でガブリエルを見ると、口元を左に上げ不敵な笑みを浮かべていた。

 

「結構です。っていうかそんなんじゃねぇし」

 

ドサッと落下音がして、その方へ目をやると、体操選手がフィニッシュでするような、Yの字の状態でガブリエルが決まっていた。

 

「そんなんだから何も残んねぇ~んだよ。言っちまえよ『好きだ!』って」
 
 

グイ~ンと伸びをしながらガブリエルは核心をついてきた。

 

そう・・・・俺には時間がない。


ゆっくりとアプローチしているような余裕もない。


しかし、ストレートにいって玉砕されたら・・・本当に成仏できるだろうか・・・。

って言うか・・・万が一俺の「恋」ってやつが実ったとして、その数日後に俺は約束通りこの世を去ることになる。


結局終わってしまう。

 

「ウジウジ悩んでんじゃねーぞ。俺に土下座したことが全部無駄になんぞ。

人生長くたって、死ぬ前のお前みたいに過ごしていたら、どんなに長くたってつまんねぇ人生よ。

短くたって、やるだけやりゃー、後悔はしねぇと思うぜ、俺は。」
 

「後悔・・・。」

 

そうだよ・・・・俺、一回自分の人生に後悔したんだよ。


やり直したいって、こいつに土下座したんだよ。
 


「どうせ死んでしまう」ていうゴールや結果を決めてしなっていた。

 

「ばぁちゃん、今集中治療室に入ってる。

酸素マスクして。

意識は・・・時々戻るんだけど、その度に俺の手を握り締めて、謝ったり、気遣ったり、励ましたり・・・自分は生きるか死ぬかって時にな・・・・


自分じゃなく、俺のことなんだよ。」

 
ポケットに手を突っ込み、遠くを見つめガブリエルはつぶやいた。

 
「この世は・・・・面倒くさいな」



始業のチャイムがなった。

 
「まっ。やるだけやれや。行くべ。」

 

ガブリエルは入り口の方へ歩いて行った。

 
俺も立ち上がり後を追った。

 

・・・・・結局・・・遅刻だよ・・・。


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