さよならまた逢う日まで
「もういいのよ・・・・。
これから幸せになろうとしている娘の人生に水をさすようなことしたくないからね。」
おばちゃんは膝の上で握り締めた手に力を込めた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あら。ごめんね啓ちゃん。おばちゃんの話につき合わせちゃって。
今度お昼のパンご馳走するから。 ほら!授業が始まるから急ぎなさい。」
おばちゃんはベンチから立ち上り、俺を追い立てた。
「美代ちゃんによろしくね。ほら!行った行った。」
午後の授業は余計に何も頭に入ってこなかった。
身が入っていないことに気づかれ、何度か当てられ、その都度同じように
「そんなんじゃいい大学に入れんぞ」と釘を刺してきた。
入れるものなら、入りたいもんだ。
俺にとって意味のない時間がもどかしくてしょうがなかった。
おばちゃんの話が、頭の中でもう一度再生されていた。
会いたくないわけがない。
祝福したいに違いない。
・・・・いいのか?自分の思いに蓋をして。
・・・・いいわけない。
おばちゃんが選ぼうとしている道は間違っている。
ガタンッ!!
「先生・・・・調子が悪いんで保健室いってもいいっすか?」
見え透いた嘘だった。
でも生徒が聞いていようが、聞いていまいが淡々と授業を進める、日本史の田中の授業だったこともあり
「あ~気をつけて行きなさい。」と簡単に承諾された。
注目するものの中でガブリエルと目があった。
さりげなく目を逸らし教室を出た。
保健室とは逆方向の昇降口へと向かった。
昼のパンを売り終え一度店舗へ戻ったおばちゃんは、部活後に売るためのパンを積んで戻ってきていた。
荷台から、パンケースを運び出そうとして目があった。
「あら!啓ちゃん。まだ授業じゃないの?
こんな所で何やっているの。」
運び出そうとした手を止めおばちゃんを腕を組んだ。
「授業はちゃんと受けなきゃダメでしょう。
啓ちゃん来年受験生でしょ。しっかりしなさい。」
友達の息子の俺を自分の別れた娘と重ねているのだろう。
いつも母親のように接してくる、それが今日は腹が立った。
「俺じゃないんじゃないの?
叱ったり、心配したり、励ましたりする相手。
違うんじゃないの?
相手はおばちゃんに会いたがってるんだぜ。
会わなくていいの?それで後悔しないって言えんのかよ。」
俺も母ちゃんに対するように思い切りぶつけていた。
「啓ちゃん・・・・。」
おばちゃんは組んでいた腕をほどき、力なく両腕を垂らした。
「そうね・・・・あの子を手放してから思えば後悔ばかりだった。
手紙を読んだ時は心の底から嬉しかった。
でもそれと同時に、怖かったのよ。
こんなに大人になるまで会いに来なかった母親を受けいれてくれるのかって・・・・」
午後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「会わずに後悔するならあって後悔した方が前に進めんじゃねぇの?」
体育館の扉が開き、授業を終えた生徒が流れ出てきた。
「何時に何処?」
騒がしい雑音に消されないよう少し声をはった。
「17時35分発の東京行きの新幹線で発つみたい・・・・。」
「行こ、おばちゃん。
会って『おめでとう』って言ってやれよ。
見送ってやれよ。」
おばちゃんはワゴン車を振り返った。
「どういうわけか全然分かんないんだけど、神田が店手伝えって言うから。
俺ら留守番しときゃいいの?
値段とかはまかしといてよ。毎日食ってるからだいたいインプットしてるし。」
振り向くと、桜井とガブリエルが立っていた。
「バイト代はコロッケパンってことで。」
ガブリエルがいつもの不敵な笑みを浮かべた。
少し間を置き、意を決したおばちゃんは、エプロンを外し桜井に渡した。
「ありがとうね・・・・啓ちゃん。」
おばちゃんは俺の方に向き直り深く頭を下げワゴン車へ走りだした。
「あれ?おばちゃんは?」
パンを買いに女生徒が売店を覗いていた。
「何パン?」
ガブリエルが必要以上に接近しながら尋ねた。
「えっ・・・コッコロッケパン・・・」
女生徒は耳まで赤くし答えると
「あっ俺も好き。うまいよね」
とアニメのように歯を輝かせ、爽やかすぎる笑顔でその子を打ちのめしていた。
最初の女子の口コミで、午後なのに売店は行列ができた。
接客ガブリエル、レジ俺、品出し桜井と勝手に役を決められ売店をさばいた。
最後のパンを売り、片付け始めたころに
「で、なんで具合の悪い啓太が売店の店番なの?」
と桜井が現状に気が付いたようでしつこく聞いてきた。
「いろいろあんだよ人生ってのは。」と話をそらすと。
「神田もなんか知ってるんだろ?
なんだよ俺にも教えてよ。
なに?神田が来て2日目だってのにこの疎外感。
俺の啓太とんないでくんない?」
と一人芝居のように大げさなリアクションで騒いだ
これから幸せになろうとしている娘の人生に水をさすようなことしたくないからね。」
おばちゃんは膝の上で握り締めた手に力を込めた。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「あら。ごめんね啓ちゃん。おばちゃんの話につき合わせちゃって。
今度お昼のパンご馳走するから。 ほら!授業が始まるから急ぎなさい。」
おばちゃんはベンチから立ち上り、俺を追い立てた。
「美代ちゃんによろしくね。ほら!行った行った。」
午後の授業は余計に何も頭に入ってこなかった。
身が入っていないことに気づかれ、何度か当てられ、その都度同じように
「そんなんじゃいい大学に入れんぞ」と釘を刺してきた。
入れるものなら、入りたいもんだ。
俺にとって意味のない時間がもどかしくてしょうがなかった。
おばちゃんの話が、頭の中でもう一度再生されていた。
会いたくないわけがない。
祝福したいに違いない。
・・・・いいのか?自分の思いに蓋をして。
・・・・いいわけない。
おばちゃんが選ぼうとしている道は間違っている。
ガタンッ!!
「先生・・・・調子が悪いんで保健室いってもいいっすか?」
見え透いた嘘だった。
でも生徒が聞いていようが、聞いていまいが淡々と授業を進める、日本史の田中の授業だったこともあり
「あ~気をつけて行きなさい。」と簡単に承諾された。
注目するものの中でガブリエルと目があった。
さりげなく目を逸らし教室を出た。
保健室とは逆方向の昇降口へと向かった。
昼のパンを売り終え一度店舗へ戻ったおばちゃんは、部活後に売るためのパンを積んで戻ってきていた。
荷台から、パンケースを運び出そうとして目があった。
「あら!啓ちゃん。まだ授業じゃないの?
こんな所で何やっているの。」
運び出そうとした手を止めおばちゃんを腕を組んだ。
「授業はちゃんと受けなきゃダメでしょう。
啓ちゃん来年受験生でしょ。しっかりしなさい。」
友達の息子の俺を自分の別れた娘と重ねているのだろう。
いつも母親のように接してくる、それが今日は腹が立った。
「俺じゃないんじゃないの?
叱ったり、心配したり、励ましたりする相手。
違うんじゃないの?
相手はおばちゃんに会いたがってるんだぜ。
会わなくていいの?それで後悔しないって言えんのかよ。」
俺も母ちゃんに対するように思い切りぶつけていた。
「啓ちゃん・・・・。」
おばちゃんは組んでいた腕をほどき、力なく両腕を垂らした。
「そうね・・・・あの子を手放してから思えば後悔ばかりだった。
手紙を読んだ時は心の底から嬉しかった。
でもそれと同時に、怖かったのよ。
こんなに大人になるまで会いに来なかった母親を受けいれてくれるのかって・・・・」
午後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「会わずに後悔するならあって後悔した方が前に進めんじゃねぇの?」
体育館の扉が開き、授業を終えた生徒が流れ出てきた。
「何時に何処?」
騒がしい雑音に消されないよう少し声をはった。
「17時35分発の東京行きの新幹線で発つみたい・・・・。」
「行こ、おばちゃん。
会って『おめでとう』って言ってやれよ。
見送ってやれよ。」
おばちゃんはワゴン車を振り返った。
「どういうわけか全然分かんないんだけど、神田が店手伝えって言うから。
俺ら留守番しときゃいいの?
値段とかはまかしといてよ。毎日食ってるからだいたいインプットしてるし。」
振り向くと、桜井とガブリエルが立っていた。
「バイト代はコロッケパンってことで。」
ガブリエルがいつもの不敵な笑みを浮かべた。
少し間を置き、意を決したおばちゃんは、エプロンを外し桜井に渡した。
「ありがとうね・・・・啓ちゃん。」
おばちゃんは俺の方に向き直り深く頭を下げワゴン車へ走りだした。
「あれ?おばちゃんは?」
パンを買いに女生徒が売店を覗いていた。
「何パン?」
ガブリエルが必要以上に接近しながら尋ねた。
「えっ・・・コッコロッケパン・・・」
女生徒は耳まで赤くし答えると
「あっ俺も好き。うまいよね」
とアニメのように歯を輝かせ、爽やかすぎる笑顔でその子を打ちのめしていた。
最初の女子の口コミで、午後なのに売店は行列ができた。
接客ガブリエル、レジ俺、品出し桜井と勝手に役を決められ売店をさばいた。
最後のパンを売り、片付け始めたころに
「で、なんで具合の悪い啓太が売店の店番なの?」
と桜井が現状に気が付いたようでしつこく聞いてきた。
「いろいろあんだよ人生ってのは。」と話をそらすと。
「神田もなんか知ってるんだろ?
なんだよ俺にも教えてよ。
なに?神田が来て2日目だってのにこの疎外感。
俺の啓太とんないでくんない?」
と一人芝居のように大げさなリアクションで騒いだ