さよならまた逢う日まで
「いいか本気だせ。勝負はどっちかがぶっ倒れたかだいいな。」

 

いまいち理解できていない啓太の事などお構いなく、走りだした。

 

闇が深まり点々と立つ外灯を頼りに走った。

 

視界が奪われていくと次の感覚が際立つ、呼吸が耳へと響きお互いを確かめあった。

 

「ハァハァハァ…ギブアップしても…ハァハァハァ…いいんだぜ」

 

「ハァハァハァ…そっちこそ」

 

「ハァハァハァ…部活こねぇから…ハァハァハァ…なまってんじゃねぇの…」

 

「ハァハァハァ…うるせぇ…」

 

タッタッタッタッと規則正しい音が校舎に反響した。

 

ほぼ同じペースで走り続けていたが、それに遅れ始めたのは啓太だった。

 

半周の差が付き「あ~もうだめだ…ギブするわ。」

 

ドサッ!と啓太はその場に転がった。

 

俺も正直限界だった。



先にぶっ倒れるかと思った。


危ないところだった。

 

どうせ勝つなら大差で勝ってやる!ってあと一周走ってやった。



そして啓太のとこらまで行きぶっ倒れた。

 

「ハァハァハァ…俺の勝ちだべ…ハァハァ。」

 

「ハァハァハァ…負けた。」

 


「ハァハァハァ…やっと…ハァハァハァ…一つお前に勝てた…ハァハァハァ」

 



空は完全に夜空へと変わっていた。


昼間の熱をため込んだ地面は、汗と熱で覆われた体をより一層暑さで包み込んだ。

 


「ハァハァハァ…部活…ハァハァこいよ」

 

少し先に呼吸が落ち着いてきた啓太からは返事がなかった。

 

「ハァハァハァハァ…それから…俺フラれたから…もう俺のこと気にしなくていいから。」

 

いつも一緒にいたから分かっていた。


グランドを走る堺を啓太が見つめていたことも。
 
 

湧き出る汗が呼吸とともに落ち着いてきた。

 

「負けっぱなしじゃ…いくら俺でもかっこ悪すぎでしょう。一つぐらい勝たないと…いや~必死だったわ」
 

啓太からは相変わらず言葉はなかった。

 

「用件はすべて伝えたから。…そろそろ帰んべ。」

 

俺は先に立ち上がり制服にまとわりついた埃をはたきながら歩いた。
 
 


啓太は地面に大の字に転がったまま動かなかった。
< 38 / 73 >

この作品をシェア

pagetop