さよならまた逢う日まで
その日もまた蒸し暑く賑やかに蝉は鳴きわめいた。


陽炎の先に亡き人を想い黒服の人が点々と集い列をなした。



俺の母親となっている人は、ばぁちゃんの訃報の知らせに海外から駆けつけ最期に立ち会えなかった事を嘆き悲しんだ。


俺は親族の席で人の流れをぼんやりと眺めた。


入れ替わりすれ違う人の流れは、音のない画像となり流れ続けた。



遺影を仰ぎ見る人の涙は何を想い溢れ出るのか。



遺族を気遣う参列者の声は何一つ耳に入ってこなかった。



俺を置いてきぼりにして静かにシーンは流れた。



解き放たれた魂は青みがかった煙となり空にのぼっていった。


蝉は相変わらず騒がしくなきわめく。



「詩織さん…急だったね。」



返事を待つわけでもなく啓太は続けた。



「最期の締めくくり方も最初から決まっているのかな…それはきっと変えられないんだろうね。」


「お前ぐらいだろう決められた最期にいちゃもんつけた奴は」


答えを待っていたわけだはなかった啓太は、見上げたままこっちを見た。


「いつか…忘れられちゃうのかな。こんなに悲しかったことも…。」


空に上る煙の筋は風にあおられることもなくまっすぐまっすぐ伸びていた。



「忘れるよ。

悲しくて泣いたことなんて遠い昔のように。


忘れるから生きていけるんじゃねーの。


でも

懐かしい匂いに、音に、景色に出会ことで思い出すんだよ。」


煙が淡く空の色に吸い込まれていった


「俺と同じように、親父もこの世におん出されたことがあったみたいでそこでばあちゃんに出会ってたみたいでさ。

ばあちゃん全部知ってたみたい

俺の事も。

最期にばぁちゃんの側にいたのは俺じゃなくて親父だったんだろうな。


あの人の最期に側にいてあげられて…よかったよ。」


同じシナリオで綴られた人生など一つもなく最初と最期を書かれた物にそれぞれが物語を綴っていく。


「お前もやり直した人生ちゃんと締めくくれよな。」


空を見上げる啓太の横顔に伝えた。


「わかってる。」


目を細め啓太は答えた。



火葬の終わりを告げる鐘が遠くに聞こえた。




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