さよならまた逢う日まで
借金の取り立てから、俺達を守るため出て行った。


親父は俺達のためだって思っていたのかもしれない。


でも、きっと母ちゃんは、どうして一緒に乗り越えなかったのか、そう思った日もあっただろう。


でも決して恨んではいなかったんだと思う。


大切にしまい込まれた手紙がそう言っていた。


便箋と通帳を戻し宛名の面に返すと、そこには銚子の消印が押されていた。


「千葉の銚子?」


場所はその辺りかもしれないけど、ぼんやりとしか覚えていない親父をどうやって探せばいいんだ。


何かないかと引き出しを探ってみると、1枚の写真が出てきた。


生まれたての俺を抱いて笑顔で映る親父だった。



その瞬間蘇ってきた。


肩車をしてもらいながら歩いた道。


傷だらけで帰り、泣きじゃくる俺の頭を乱暴に撫で「擦り傷は男の勲章だ」と豪快に笑う親父の顔。


俺にもオヤジの記憶があった。


そう思ったら、無性に会いたくなった。


手紙の銚子という消印だけが手がかりで、そこに住んでいるかも定かではない。


手元にあるのは十数年前に撮られた1枚の写真。


これだけで親父を見つけるには時間がかかる。


そんな時間は俺にはない。


やるべきことはこれだけじゃない。


燻っていたサッカーへの思いに蹴りをつけたい。


練習試合までの日々精一杯練習に向き合いたい。


その結果がどうであれ、誰かにどう思われるかとか、誰かと俺を比較するとか全てなしで、燃え尽きて悔いを消化したい。


そしてそれができて初めて俺は堺に想いを伝える。


それが俺のやるべきこと。



だから親父を探す時間は正直ない。


生き返る時1か月でも1時間でもとにかく戻りたかった。


1か月でももう一度やり直せるのなら十分だと思った。


こんなにも時間がない、残された命の短さを恨めしいと感じるなんてあの時思いもしなっかた。


それだけ今俺は生きているのかもしれない。







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