さよならまた逢う日まで
その時ポケットのスマホが震え着信を知らせた。


画面には「桜井」と記され、俺は通話ボタンを押した。


「啓太どうした?急に帰って。体調悪いのか?」


「いや…ちょっと用を思い出して。これから戻るわ。」


「無理すんな。お前にはブランクがあるからな。ここでバテられちゃ困るからな~」


やや茶化した言い方で心配して電話をしてきたことを誤魔化し桜井は電話を切った。


親父を探すことへのいい手が見つからないまま俺は学校へと向かった。


坂道を下り学校まで続く並木道を自転車を走らせていた時だ。


「草野くん!」


なんとなく聞き覚えのある声が俺を呼び止めた。


自転車を止め声のした方を振り向くと、その先に黒ケンが立っていた。


前髪を分け、ほんの少し雰囲気を変えた奴は俺に駆け寄ってきた。


「草野くん。あの時はありがとう。ちゃんとお礼が言えてないのに夏休みに入っちゃって、よかった会えて。」


黒ケンは間違った距離感で俺に迫りより、伝えたいことを一気に伝えてきた。


「おお…あれから加藤にやられてないか?」


「うん…でも、僕じゃない標的ができて何もかわっていないのかもしれない。


でも、君に教えてもらったように目を逸らすことはしないって、僕なりの奴らへの抵抗はしているつもりだよ。」


黒ケンは少し背筋を伸ばし近況を伝えてきた。


「ありがとう。本当にありがとう。わかっていたことだけど、自分ひとりじゃどうにもならなかった。背中を押されて前に進めたよ。」


「良かったな。めちゃくちゃ感謝されてっけど、俺何もしてねぇし。お前に言ったこと、そのまんま自分に言ってたのかもしんない。感謝されるような人間じゃねぇよ。」


そのままペダルに足を掛け、その場を去ろうとした。


「そんなことないよ!僕は草野くんに人生を変えてもらったって思ってる。だから、何か僕にお返しをさせてほしい。僕なんかができることなんてたいしたことないけど…。」


自転車の荷台をつかみ黒ケンは俺をまっすぐ見つめた。


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