さよならまた逢う日まで
黒ケンは翌日から銚子へと向かってくれた。


LINEにその都度画像を添付し捜査情報を伝えてきた。


あの時言っていなかったが黒ケンのおばさんが千葉に住んでいるらしく、そこを拠点にし親父を探してくれているらしい。


そのことも気になりつつ俺はとにかくサッカーに打ち込んだ。


一時はプロを目指したいと思っていたくらいだったから、1年近いブランクは徐々に感じられないほど動けるようになって来た。


そして練習試合まで残すところ3日となった。



練習を終え部室を出るとすぐ後ろから桜井が出てきた。


「啓太。ちょっと時間ある?」


呼び止められ立ち止まると、桜井は俺を追い越しその先のベンチに座った。


「ちょっと話そうや。」


ポンポンと叩き促す桜井の隣に座った。


「感が戻ってきたみたいだな。さすがだよ啓太。あと3日だな。とにかく思い切りやろうぜ。」


桜井は激励をした後本題を話し始めた。



「試合終わったら堺といくの?…花火」


約束をしたあの日の場面を思い出した。


「うん…。」



「そっか、誘ったか。良かったじゃん…俺もだれか誘おうかな。」


予想はしていただろうけどそれでも動揺して桜井は立ちあがった。


思い切り嬉しいことであの日を思い出すだけで心臓が暴れまくるくらいなはずなのに、その気持ちは胸を苦しくさせるだけだった。


俺はまだ堺に何も伝えていない。


伝えたとしてもその日が最後になる。


思いを応じてくれるかはわからないけど、伝えないで消えてなくなった方がいいのかもしれない。


もし俺のことを堺が好きでいてくれるとしたら、俺の思いを伝えることは残酷なことだ。


「俺…このまま消えてなくなったほうがいいのかな。」


思わず言葉が漏れた。


「何言ってんだよ。それは俺の台詞だろ。お前は幸せいっぱいなはずだろ。」


少し怒った口調で桜井が返してきた。





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