さよならまた逢う日まで
先に言葉を発したのは桜井だった。


「堺を悲しませるようなことがあったら俺がお前から奪い取ってやる。

だから安心しろ…意味わかんねぇけど。」



見上げた夜空はぼやけて歪んでいった。



「お前が変わった時何かわかんないけど、お前のようでお前じゃない、でもこれが本当のお前なのかなって、意味わかんない感じがいつもしてた。

この先何かあるのか?


言わなくていいけど、俺はこの先何かあっても何も変わらない。


お前のことは大嫌いで、大好きだ。


意味不明だろフフフッ。」


少し黙って桜井は続けた。


「ダメな俺を目覚めさせてくれたのはお前だからな。


俺にとっての堺はお前だったのかもな。


気持ち悪いだろフフフッ。」


声を殺して泣く俺を桜井らしく笑わそうとした。


それが余計に泣けてくる。



「一緒にまたやるべサッカー。悔いが残んないようにな。」


前にもあった、こんな風に桜井と夜空を見上げたこと。



「俺にとって残された時間はあと3日。3日後にはもうこの世にはいない。」


横に寝転ぶ桜井の視線を感じた。



「俺、一度死んだんだ。3日後の8月28日に一度死んでる。」


桜井は上体を起こし俺を見下ろした。明らかに信じられない話なのに、何故か疑わず俺の話を聞いていた。


「こんなに早く最後が来るなんて思ってなかった。


死んでみて思い知ったよ。俺の人生何も残ってないって。


いつかやれば、今やらなくても時間はあると思っていた。


自分がダメなのは誰かのせい、上手くいかないのは周りのせい。


ダメな自分に向き合おうなんて思わなかった。


でもこんなんじゃ浮かばれねぇ、そう思って神様に土下座してお願いしたんだよ。『生き返らせてくれ!』って。


そんでもらったんだ。1か月っていう時間を。」



約1か月前にガブリエルと出会ってからのことを思い出し言葉にした。









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