さよならまた逢う日まで
待ち合わせの駅前に着くと堺は花火大会のポスターの前に紺色の落ち着いた浴衣姿で立っていた。


「ごめん…遅くなって。」


息を切らし近寄る俺に気づき堺は照れたように俯いた。


「試合お疲れさま」


顔を上げ微笑んだ。


「うん…結果は負けた。」


俺も俯き報告した。


「うん。でも嬉しかったよ。また草野くんをグランドで見られたから。」


堺は最後まで言い終わる前にまた俯いた。


俯きあったまま数分の時間が流れた。


俺はタイミングを見計らいすぎて、髪を耳にかけようとして上げた手を止めるような間の悪さで堺と手をつないだ。


そのまま河川敷に向かい歩いた。


何を話していいのか分からず、ずっと黙ったまま歩いた。


「浴衣超かわいいじゃん。似合ってるよ」


聞こえてくるカップルの言葉に


それ、そう言いたいんだよ。


心でつぶやいても言葉に出せない。


そのもどかしさでつないだ手に力が入った。



「草野くん…ちょっと手、痛い」


見下ろした堺は苦笑いを浮かべていた。


「あっ!わるい!」


とっさにつないだ手を離し慌てる俺の手を堺がもう一度つないだ。


「手、離さなくていいよ…。もっと話したい。草野くんのこと…もっと知りたい。」


ドーンドドドドーン!!


連続で打ち上げられる花火であたりがぱっと明るくなった。


「俺も堺のこともっと知りたい。」


花火と人ごみの喧騒で俺の鼓動は俺にしか伝わってこない。


でもつないだ手から堺に伝わっているようで顔を見ることができなかった。


「あの辺座ろうか」


堺はその先にある2人分だけ空いたスペースを指さした。








< 70 / 73 >

この作品をシェア

pagetop