さよならまた逢う日まで
自転車にまたがり、家の前から続く緩やかな坂をペダルをこがず下った。


纏わりつくような暑さと、ジージーと鳴きわめく蝉の声はあの日と同じだ。


・・・・やっぱり夢だったんだ・・・・。


かなり凝った夢を見たんだ・・・・そうに違いない



きっとそうだ。


自問自答しながら走り、気がつくと校門の前で止まった。


「コラ~!草野!!何時だと思ってるんだ!急げ!」


学園ドラマにありがちな、竹刀を持った生活指導の教師が門の前で怒鳴った。


すり抜けるように進み自転車小屋に向かうと、すぐ後にまた怒鳴り声が聞こえた。


「こら~~~!桜井!急げ!!」


・・・・・あいつも遅刻かよ・・・・・



俺は自転車を止めた後もさほど急ぐことなく校庭を歩いた。


「啓太~~~待ってよ!」


ガシャガシャとやかましい音を立て、自転車を止め桜井が走ってきた。


「啓太遅刻かよ~」


真面目な顔をしても笑っているような桜井は、よく先生に「何笑ってんだ!」
と怒鳴られる。


「お前も遅刻だろ」


振り向きもせず、俺は歩いた。


「テストが終わるとさ~学校くんのもかったり~よな。


あ~あと3日で夏休みだ~~!なっ、啓太はバイトすんの?」



夏休みの3日前。俺が死んだ日のちょうど1ヶ月前。
でも、あれは夢。夢に違いない。


それにしても、朝からウザイ。





教室の後ろからとりあえず隠れて中へ入った。


と言っても隠れたところで俺の席は中央の前から3番目・・・・・無駄な抵抗だ。


「おう!草野・桜井お前ら遅刻な~うん」


特にトーンを変えず、担任の越野が耳に掛けたボールペンで出席簿にチェックした。


「悪いな、うん。じゃ自己紹介もう1回頼む、うん。」


その言葉に見上げると、教壇に男の生徒が立っていた。



「えっと~神田 レオです。よろしくお願いしま~す。」


・・・・なんか軽い・・・・


「え~神田くんはロサンゼルスのハイスクールに通っていましたが、

お家の急な事情でこんな時期の転校になったんだそうです。


あと3日で夏休みに入るが、ま~いろいろ教えてやってくれ。いいな~。」


3日後の夏休みを控えた教室は、誰も人の話など聞いていられない。


皆がそれぞれ3日後の自由に思いをはせる。


俺もまた頬杖をつき、ぼんやり越野の話を聞いていた。



・・・・って言うか・・・・あいつどっかで会ったような気がする・・・・。



転校性の神田という奴は、教室の一番前の右端の席に座った。


なんか気になり俺はそのまま神田を見ていた。


その瞬間、視線に気がついたかのように神田は振り向き目が合った。


そしてまた向き直り猫背のように背を丸くした。



・・・・・何やってんだあいつ・・・・・


頭をかしげてよく見ると、神田のワイシャツの下に薄っすら何か浮かんでいた。


「あ?!I ❤ angel・・・・?」
羽の絵が描かれたTシャツの柄が読み取れた。


そして神田はまた振り向きニヤっと笑った。


「・・・・エンジェル・・・・天使・・・・あ~~~~っ!!!!!」


俺は大声で叫び立ち上がった。


「留年」と書かれた書類を突き付けたあいつ・・・・そうだ!あいつだ!



・・・ってことはやっぱりあれは夢じゃないんだ。



散々注目を浴び、俺は机に倒れこんだ。



「うるさいぞ~草野。」


やっぱり越野はトーンを変えずに言った。










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