小さな喫茶店
不思議な女だと思った。
確かに在るのに、掴むことは出来そうにない、不思議な女だ。

その女の回りは時間の流れがまるで無いように思えてしまう程、いつ見ても変わらない。変わらない世界がそこにはあった。


「いらっしゃいませ」

少し時間を潰すだけに入った店だった。ただそこに遇ったから。ただそれだけだった。小さな喫茶店。客は奥に初老の婆さん独り。特に何も考えずカウンターに座った。

注文もしてないのにそっと置かれるコーヒーカップ。

「ブラックコーヒー。貴方に似合うと思って」

そう言って微笑んだ女に釘付けになった。


今思うと大分お節介な女だ。

「ん?」

声に出してないのに、勘の良い女だ。時々怖くなる。俺の気持ちなんて全て見破られているんじゃないか。

本当は苦いのが嫌いな事も、ブラックコーヒーが飲めなかった事も、ここに来るためにブラックコーヒーを飲めるようになった事も、今でも惚れてる事も。

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