宇宙旅行へ行きませんか




「そうすれば重力だってないし。僕らの世界には、僕らしかいなくなる。翼なんてなくとも宙を飛べるよ」

「でもそれじゃあ、息なんて出来ないよ」



ふうむ、と彼は眉間に皺を寄せた。息が出来ない以前の問題だろう、とも思うが敢えて口を開かなかった。だって、宇宙に行くには適正な試験を要するし、訓練だって必要、大気圏突破の際に事故が起こる可能性だって拭えない上に、宇宙服は重いのだ。


「じゃあ二人でずっと、キスしとけば良いよ」



根本的な、馬鹿だ。よく其れで大人になり、かつ、教師免許を持てたものだ。心配しなくとも私の世界は貴方だけなのに、とは言わない。そんな事を言ってしまえば、彼は妖精だから、きっと夢が醒めて終わるに相違ない。

笑ったまま立ち上がると彼は私に手を差し出す。白衣の裾がチョークで汚れている。靴の底には泥が付いている。現実味に溢れた王子様は、御伽噺には不向きなのに。


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