宇宙旅行へ行きませんか





私の鼓膜を優しい音が震わせる。ハッピーエンドはあるのかしら、甘い悪魔が囁いている。在るかもしれないわよ、と苦い天使が嘯いている。


「ねえ、お姫様、僕と宇宙旅行へ行きませんか」


机や椅子は重力を無くして空に浮かぶ。ビルも、校舎も、水も、飽和する喧騒も、貴方の優しい眼差しも。そして世界は二人だけになる。嗚呼、何と素敵な逃避行。重力なんて亡くなってしまえば、此処から逃げ出せる気がするのだ。常識という柵だらけの、此の世界から。

「はい、よろこんで」

爽快な風が教室の中を白馬の様に駆け巡る。ウエディングドレスを彷彿とさせるカーテンがふわり、風を抱く。進路を決定する薄っぺらい紙束が風に攫われて、飛んで行く。足が軽くなる。木製の床に日溜まりが落ちて、星と為って弾ぜる。

私は彼の手を取った。宇宙へ行く方法なんてそれだけで、良かった。




< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:14

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

エドガーさんと

総文字数/644

恋愛(その他)1ページ

表紙を見る
ジャンクブック

総文字数/16,873

その他17ページ

表紙を見る
まほうつかいといぬ

総文字数/10,309

青春・友情23ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop