茄子が繋いだ運命(?)
1*訪問者。

縁側に一人腰掛けながら、庭の畑を眺める。

…………暑い。

セミ達の鳴き声が消えて、9月になっても暑い。


「ぁ…茄子…食べ頃かな…?」

畑の茄子を見つめながら虚ろな声でつぶやく私、穂村梨里(ホムラリリ)。

一ヶ月前に、一人暮らししていたおばあちゃんが肺を悪くして入院した。

家族と離ればなれの私は、今こうして一人でおばあちゃんの家を守っている。

ふらっと庭に出ると、艶々した茄子を八つ、もぎ取った。

今日は、何を作ろう…?

その時。

“彼”のことを思い出した。

……宮。

天然で、

笑顔が可愛いくて、

茄子が好きな、

私がちょっと気になっている人。

「さ、さすがに今日は来な…―」

『梨里さ〜んっ』

来た。考えていたそばから。

はっとして塀の所に急いで駆けつけた。

塀からひょこっと覗く、可愛らしいけれど整った彼の顔。

「宮!」

名前を呼ぶと彼はにこっと笑い、

『きょ、今日は通りすがりで来ちゃいました…』

てへっ☆と可愛いらしく、毎度の言い訳だ。

私はふぅっとため息を吐き、告げた。

「今日は、麻婆茄子でいい?」

その瞬間、宮の表情が輝いた。



『おいひぃ…ひひはんっ(おいしい…梨里さんっ)』

今、言っておこう。

人の家に急に来てもぐもぐと幸せそうに麻婆茄子を頬張る、恋人でも何でもないこの人物…―

笠井宮(カサイミヤ)は私より1つ上の、23歳だ。

少し癖のある髪と、顔は童顔だけれどかっこいいし、背も高い。

…しかも、近所の郵便局員だ。
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