死神の嘲笑
「それに、地元に住む幼馴染みへの心遣い。彼が現世を去れば悲しむ人は多くいるだろう、と容易に予測できたのですが、私は自分の欲望を優先させてしまったんです……」

ぽとん、と梓の足元で透明な滴が弾けた。

「結果として、私は矢口健太さんの命を奪いました。自分の傍にいてくれれば、私も矢口さんみたいな心を持つことができるのではないか、と思ったからです……」

梓の足元は、もはや小さな水溜りと化していた。

「あなたは、健太を連れて来て、変われたんですか?」

今にも薄い膜が破れてしまいそうな、瞳を死神に向け、尋ねる。

「はい。私もほんの少し、まともな心を持てるようになったと思うんです」

薄い膜が、再び、破れた。

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