死神の嘲笑
「いいんです。けん……矢口さんの分まで、私が憶えておきますから」

つーっと一筋の水滴が頬を伝うのが、分かった。

「そうですか。本当に、ごめんなさい」

「いいんです。あなたがいてくれたことで、私はかなり救われていました。あなたのことが大好きだったんです。できれば現世で言いたかったんですが」

梓の言葉に、健太が頭を振る。

「いいえ。記憶は欠け落ちていようとも、俺がいたことを喜んでくれた人が一人でもいてくれたと分かれば、十分です」

死神から受け取ったビーチボールを地面に置き、健太が歩み寄ってくる。

そして、右手を差し出した。

梓はその手を、ぎゅっと握り締める。


――温かかった。

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