死神の嘲笑
五月の中頃、梅雨を待ち切れないのか、大粒の滴が空から降り注いでいた日のことだ。


「健太君、交通事故で亡くなったんだって」

母が、告げた。

「う、そでしょ?」

「大学帰り、信号無視の車にはねられたって。告別式の日程は決まっていないけど、こっちでするんだと思うわ」


結局、後日行われた通夜にも、告別式にも、梓は参列できなかった。


健太は、『生きている』、絶対に。

ひょっこりと戻ってくる、照れくさそうな笑顔を浮かべて。


自室に篭り、言い聞かせるしかなかった。

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