束縛+甘い言葉責め=溜息
離婚
畑山がこの家に来たことは何度もある。数えきれないくらいだ。たが確実に覚えているのは、彼は必ず手土産を持って来たということだ。
それを忘れた日は、今日以外にない。
「……ごめん……」
玄関に本当に現れた畑山を見るなり、私は謝った。
「いいよ。とりあえず、修三に電話したんだけど出なかったよ」
畑山は靴を脱ぐ。私はその様をただじっと見ていた。
「あ、ここで話済まそうか」
入られては困ると勘違いした畑山は、伺い加減でこちらを見た。
「あっ、ううん。入って。……ごめん、ぼーっとしてた」
リビングに入り、ソファに腰かけてもらう。
お茶くらい……という言葉が頭に浮かんだがすぐに消えた。
立ち上がる気力もない。
深く、目を閉じる。
離婚……。
言葉だけは知っている。たが果たして、今の状態がそれに繋がっていくのかどうかは、全く分からない。
「ちょっと電話かけてくるよ」
畑山はすぐに立ち上がって部屋の外に出た。
吉住に電話をかけて、何を言うつもりなのだろう。
「先輩!」
玄関が開いた音がしたので、畑山が出たのだと思ったら、タイミング悪く、吉住が帰ってきたらしかった。
「いやちょっと、そこまで来たもんでね」
電話のことは言わないでくれるつもりなのか。畑山は明言を避けた。
「え、どうしたんですか? こんな時間に」
「お前こそどうしたのよ。仕事は?」
「いやそれが、大変なことになりましてね。
……真紀さんは?」
出て行くべきかどうか、迷う。
「いるよ。リビングに。まあなんだし、お茶でもしてから帰るわ」
「いや……すみません、今ちょっと、取り込んでて……」
吉住の沈んだ声が聞こえる。
「知ってるよ。今偶然聞いた。まあ、少し話そうよ。俺がいたら話しづらいかもしんないけど、間に入った方がよさそうだし」
「…………、真紀さんが呼んだんですか?」