彼氏くんと彼女さんの事情
なんだ、気づいてたんだ。色々気にしたのに。と、少しばかり恨みを込めた目で睨んでみる。
しかし春川くんは、無言に無表情、ついでに視線は全然違う方向を向いていた。
「…………」
「……」
「……あ、」
そういえば、と呟くと、春川くんはちらりと私を見た。
「いつから私のこと好きだったの?」
春川くんの、形の良い綺麗な二重の瞳を、期待を込めた目でじっと見据えて言った。
だって、ねぇ。
私のこと好きだなんて全然知らなかったもん。
そこらへん、すごく気になるんですけど。
期待に高鳴る鼓動に胸をおさえながら、春川くんの言葉を待つ。
すると、ふいにゆるりと頬を緩ませた春川くんがポツリと言った。
「秘密」
「えぇー、何でよずるい!教えてよ」
淡い期待は裏切られる。
私の言葉を無視して、春川くんはころころと楽しそうに笑い出した。
むう、と眉を寄せつつ、そんな彼の無邪気で綺麗な笑顔を見ていたら、何だか私までつられて笑ってしまった。
太陽が沈み始め、生徒のいなくなった寂しげな放課後の教室。
しかしやんわりとオレンジ色に染まったここは、二人にとって柔らかいほどに温かく、心地のよい場所。
鈍感で無関心で、超絶マイペースだけれど
すごくすごく愛しい彼です。
(まぁ根気よく頑張ってください)
―鈍感彼氏[完]―